スタートアップへの投資をすることで税制上の優遇が受けられる仕組み、「エンジェル税制」をご存じですか?
特に、次のような方は知っておきたい制度です。
- 株式を売却して大きな利益が出た方
- 給与や役員報酬などの所得が多く、所得税の負担が大きい方
- これからスタートアップへの投資を考えている方
エンジェル税制とは、一定のスタートアップへ投資した個人が、所得や株式の売却益から投資額の一部を差し引くなどの税制優遇を受けられる仕組みのことをいいます。
さらに2026年からは、一定の要件と事前の手続きを満たせば、株式を売却した翌年の投資でも、前年の株式譲渡益に係る所得税の一部について還付を受けられるようになりました。
本記事では、エンジェル税制の仕組みや2026年からの改正点、どの優遇措置がどのような人に向いているのかをわかりやすく解説します。
エンジェル税制とは?スタートアップ投資で税負担を軽減できる制度

エンジェル税制とは、成長を目指す企業への資金供給を後押しする目的で設けられた制度です。
この制度を利用すると、投資額の一部を所得から差し引いたり、株式を売却して得た利益から投資額を差し引いたりして、税負担を軽減できます。
ただし、スタートアップ投資なら何でも対象になるわけではなく、投資家と投資先企業の双方に要件があります。
また、受けられる優遇措置にもいくつか種類があるため、自分の所得や株式譲渡益、投資先に合うものを確認する必要があります。
2026年からエンジェル税制はどう変わった?主な改正点

令和7年度(2025年度)税制改正により、2026年からエンジェル税制の一部が見直されました。
今回の改正で特に大きいのが、株式売却の翌年に行うスタートアップ投資も一定の場合に対象になったことです。
株式を売却した翌年のスタートアップ投資も対象になり得る
2026年からは、一定の手続きを行えば、株式を売却して利益が出た翌年末までのスタートアップ投資も優遇対象になります。
従来、株式譲渡益からスタートアップへの投資額を控除するには、利益が出た年のうちに対象企業へ投資する必要がありました。
改正後は、前年分の確定申告時に、翌年中に対象株式を取得する見込みである旨などを記載した書類を提出しておけば、翌年末までに行った対象投資も税制優遇の対象になり得ます。
例えば、2025年に株式を売却して大きな利益が出た場合、2026年3月の確定申告までにスタートアップ投資を検討し、必要な手続きをしておけば、実際の投資は2026年末までに行うことができます。
一定の場合は前年分の所得税の還付を請求できる
2026年からは、優遇措置Bやプレシード・シード特例を利用する場合、投資した年に控除しきれなかった額について、前年分の株式譲渡益に係る所得税の還付を請求できるようになりました。
まず、投資した年の株式譲渡益から対象投資額を控除し、そこで控除しきれない一定額がある場合、その額に対応する前年分の株式譲渡益に係る所得税について還付を受けられます。
なお、所得から控除する優遇措置Aは、繰戻し還付の対象ではありません。
エンジェル税制を使うと税金はどう変わる?

それでは、エンジェル税制を使うと税金はどのように変わるのでしょうか?
エンジェル税制で使える3つの優遇措置を表にしたものが以下です。
| 優遇措置 | 控除する対象 | 税制上の効果 |
| 優遇措置A | 総所得金額等 | 所得を減らして、その年の所得税負担を軽減する |
| 優遇措置B | 株式譲渡益 | 株式譲渡益への課税を将来に繰り延べる |
| プレシード・シード特例 | 株式譲渡益 | 一定額まで非課税にできる |
どの措置を利用できるかは投資先企業によっても異なります。
まず投資先がどの措置の対象かを確認し、そのうえで自分の所得や株式譲渡益に合うものを選びましょう。
同じ年に複数の企業へ投資した場合は、企業ごとに異なる優遇措置を選ぶことも可能です。
ただし、同じ企業への投資について複数の措置を重ねて適用することはできません。
これらの投資時の優遇措置は所得税に関するもので、住民税は対象外です。
優遇措置A|投資額に応じて所得から控除する
優遇措置Aは、対象となる投資額から2,000円を差し引いた額を、その年の総所得金額等から控除する仕組みです。
対象投資額には、原則として「800万円」と「総所得金額等の40%」のいずれか低い額という上限があります。
ほかに、ふるさと納税など、寄附金控除の対象となる支出がある場合は、あわせて上限を確認します。
差し引くのは税金そのものではなく、税額計算のもとになる所得です。
そのため、実際に軽減される所得税額は、所得や適用税率などによって変わります。
ただし、優遇措置Aは投資時の税金が軽くなる一方、その優遇を受けた分は将来その株式を売却するときの税計算に影響します。
そのため、投資時だけでなく将来の売却まで含めて考える必要があります。
給与所得や事業所得などが大きい方は、所得控除による税負担の軽減効果も大きくなる傾向があるため、優遇措置Aが候補になります。
優遇措置B|投資額を株式譲渡益から控除する
優遇措置Bは、対象スタートアップへの投資額を株式譲渡益から控除し、課税を将来に繰り延べる仕組みです。
投資した年に株式譲渡益があれば、そこから投資額を控除します。
一定の要件を満たせば、前年分の株式譲渡益に係る所得税の還付を受けられる場合もあります。
対象となる投資額自体に上限はありません。
ただし、控除した分は将来その株式を売却するときの税計算に反映されます。
そのため、基本的には課税を将来に繰り延べる措置といえます。
株式の売却益があり、もともとスタートアップへの投資を考えている方が検討するとよいでしょう。
プレシード・シード特例|一定額を株式譲渡益から控除し非課税にする
プレシード・シード特例は、設立から間もない初期段階のスタートアップへの投資を、より強く後押しするための措置です。
対象となる企業へ投資すると、株式譲渡益から投資額を控除でき、年間20億円までの投資については非課税となります。
20億円を超える部分は、優遇措置Bと同じく課税を将来に繰り延べる扱いです。
優遇措置Bとの大きな違いは、一定額まで「課税を先送りする」のではなく、非課税にできる点です。
ただし、利用できるのは設立5年未満など一定の要件を満たすスタートアップへの投資に限られます。
初期のスタートアップなら何でも対象になるわけではありません。
投資先が値下がり・倒産した場合にも税制上の措置がある

対象株式の売却で損失が出た場合は、一定の要件を満たせば、その損失をほかの株式譲渡益と相殺したり、翌年以後3年間繰り越したりできます。
また、投資先が破産・解散するなどして株式の価値が失われた場合にも、一定の損失を売却損とみなす措置があります。
ただし、単に株価や企業価値が下がっただけでは対象になりません。
実際の適用には要件があるため、損失が出た場合は税理士などに確認するとよいでしょう。
エンジェル税制を利用する前に確認したい注意点

エンジェル税制は、スタートアップへ投資すれば誰でも使えるわけではありません。投資する人と投資先の双方に条件があり、利用するには確定申告も必要です。
投資する人にも条件がある
エンジェル税制を利用できるのは、一定の要件を満たす個人投資家です。
例えば、直接投資する場合は、原則として金銭を払い込んで新たに発行される株式を取得する必要があります。
そのため、既存の株主から株式を買い取った場合などは対象になりません。
また、投資先が同族会社で、一定の株主グループに属する場合や、自分が営んでいた事業の全部を投資先へ引き継いだ場合などは対象外となります。
投資先企業にも条件がある
投資先にも、主に次のような条件があります。
- 未上場の中小企業である
- 優遇措置A・プレシード・シード特例は設立5年未満、優遇措置Bは設立10年未満である
- 設立年数に応じて、研究開発や売上高の成長など一定の要件を満たしている
- 大規模法人グループの所有に属していない
- 外部から一定割合以上の出資を受けている
必要な条件は利用する優遇措置や投資方法によって異なるため、投資前には「エンジェル税制の対象企業か」だけでなく、「どの優遇措置を利用できる企業か」まで確認しておきましょう。
プレシード・シード特例の非課税措置には保有期間の条件がある
2026年から、プレシード・シード特例の非課税措置を利用する場合は、原則として取得した年の翌年末まで株式を保有する必要があります。
それより前に売却すると、原則として非課税措置は使えず、課税を将来に繰り延べる扱いに変わるため注意が必要です。
利用するには確定申告が必要である
エンジェル税制は、対象企業へ投資しただけで自動的に適用されるわけではありません。
投資先などから必要な書類を受け取り、確定申告で手続きを行う必要があります。
直接投資の場合は、投資後に投資先企業が都道府県等へ確認申請を行い、確認書の交付を受けます。
その確認書などを投資家が受け取り、確定申告で税務署へ提出するのが基本的な流れです。
まとめ|エンジェル税制は「投資する前」の確認が重要
エンジェル税制は、スタートアップ企業を応援しながら、税制上の優遇も受けられる制度です。
一方で、利用できる優遇措置は投資先や所得、株式譲渡益の状況によって異なり、確定申告などの手続きも必要です。
税制優遇だけを見て投資先を決めるのではなく、投資そのもののリスクも含めて判断する必要があります。
スタートアップへのまとまった投資を検討している方や、どの優遇措置を利用できるかわからない方は、投資前に税理士へ相談するとよいでしょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の判断については、専門家にご相談ください。


コメント