不動産投資の規模拡大を考える際、法人名義での物件購入は有効な選択肢になります。個人名義での購入とは違い、税制面や資産承継で有利に働く場面が多く存在します。しかし、法人設立のコストや運営の手間も考えなくてはなりません。この記事では、不動産の法人名義での購入について、専門家である税理士の視点からその仕組みやメリット、注意点を解説します。
法人名義の不動産購入と税理士の役割

法人名義での不動産購入は、個人での購入と根本的に違います。所有権が法人に帰属するため、会計処理や税金の仕組みが変わります。まず、この手法の基本的な考え方と、成功に欠かせない税理士という専門家の関わり方について理解を深めましょう。
個人名義との違いとは
個人名義と法人名義の違いは、不動産から生じる所得にかかる税金です。個人であれば所得税と住民税が課され、所得が多いほど税率が高くなる累進課税が適用されます。一方、法人名義の場合は法人税が課されます。法人税は利益の額に応じて税率が変わりますが、一定以上の所得がある場合、個人の税率より低くなる傾向にあるため、この税率差が、法人化を考える大きな動機のひとつになるでしょう。
法人設立のタイミング
不動産購入のために法人を設立するタイミングは重要です。すでに複数の物件を所有し、所得が一定額を超えている場合は、新規購入物件から法人化するのが一般的です。また、これから不動産投資を始める段階であっても、将来的な規模拡大を見据えて最初から法人名義で購入する戦略もあります。個人の所得状況や今後の事業計画に応じて、最適なタイミングを税理士などの専門家と相談して見極める必要があります。
税理士の役割と選び方
法人名義での不動産購入において、税理士は欠かせないパートナーです。税理士の役割は、適切な法人形態の提案、設立手続きの支援、そして購入後の決算申告や節税対策の助言にまで及びます。不動産に精通した税理士を選ぶことが成功のカギになります。選ぶ際は、不動産関連の法人クライアントを多く抱えているか、資産税に関する知識が豊富か、といった実績面を確認することが大切です。
税理士が解説する法人名義での不動産購入メリット

法人名義で不動産を購入する手法が注目されるのは、個人名義にはないメリットが存在するためです。特に税務上のメリットは大きく、計画的に活用することで手元に残るキャッシュフローを最大化できます。ここでは代表的な3つのメリットを掘り下げて解説します。
経費計上の範囲が広がる
法人名義にすると、不動産経営にかかる費用を経費として計上できる範囲が広がります。例えば、役員への給与である役員報酬や退職金、生命保険料の一部などが経費として認められる仕組みです。また、事業に関連する移動費や交際費も、個人事業主より柔軟に経費化できる場合があります。
所得分散による節税効果
所得分散も法人化の大きなメリットです。オーナー自身や家族を法人の役員とし、役員報酬を支払うことで、不動産所得を個人に分散できます。これにより、オーナーひとりに所得が集中する場合と比べて、適用される所得税の税率を低く抑えることが可能です。さらに、給与所得控除が適用されるため、同じ金額を事業所得として得るよりも個人の税負担が軽くなります。家族の生活基盤の安定にもつながります。
相続対策としての有効性
法人名義の不動産は、相続対策としても有効です。個人名義の不動産は直接相続の対象になり、高額な相続税が発生する可能性があります。一方、法人名義の場合、相続財産は不動産そのものではなく、その法人の株式になります。株価を計画的に引き下げたり、生前に株式を贈与したりすることで、相続税評価額をコントロールしやすくなるでしょう。
法人名義の不動産購入で税理士が考えるデメリット

多くのメリットがある一方、法人名義での不動産購入にはデメリットも存在します。特にコスト面や金融機関との折衝、そして将来の出口戦略については、事前に十分な検討が必要です。これらのデメリットを軽視すると、かえって不利益を被る可能性もあります。
法人設立と維持のコスト
法人を設立するには、定款認証や登記のための費用が必要です。株式会社の場合、一般的に20〜25万円程度の実費がかかります。さらに、法人を維持するためには、赤字であっても毎年支払う義務のある法人住民税の均等割が発生します。税理士への顧問料や社会保険料の負担も考えなくてはなりません。
融資審査のポイント
法人名義で不動産購入ローンを組む場合、融資審査は個人より厳格になる傾向があります。特に設立間もない法人は事業実績がないため、代表者個人の信用情報や資産背景が重視されるものです。金融機関は、事業計画の妥当性や将来の収益性を厳しく評価します。そのため、説得力のある事業計画書を作成し、自己資金を十分に用意することが融資実行のカギになります。
出口戦略と譲渡所得税
不動産の出口戦略、つまり売却時の税金も考えるべき点です。法人名義の不動産を売却して得た利益である譲渡益には、他の事業利益と合算して法人税が課されます。個人の場合、所有期間が5年を超えると譲渡所得税の税率が低くなる長期譲渡所得の特例がありますが、法人にはこの制度が適用されません。そのため、短期的な売却を前提とする場合は、法人化が不利に働くケースもあることを理解しておく必要があります。
まとめ
法人名義での不動産購入は、所得税や法人税の税率差をいかした節税、経費計上の範囲拡大、そして円滑な相続対策など、多くのメリットを提供します。特に複数の物件を所有し、事業規模を拡大していくフェーズのオーナーにとって、これは資産形成を加速させる強力な手段です。一方で、法人設立・維持コスト、社会保険料の負担、厳格な融資審査といったデメリットも存在します。最終的な意思決定にあたっては、不動産税務に精通した税理士に相談し、自身の状況に合わせた詳細なシミュレーションを行うことが成功への第一歩になります。


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