脱税と租税回避はいずれも不自然・不合理な手段で税額を下げようとする行為です。このうち脱税は明確な違法行為ですが、租税回避は法律に反しているわけではなく、ペナルティも課されません。
脱税と租税回避どちらも決してやるべきではありませんが、両者の扱いが異なる以上、違いは知っておくべきでしょう。今回は脱税と租税回避の違いについて詳しく解説します。
脱税とは
脱税とは法律で禁止されている不正行為によって納税を逃れることです。租税逋脱(ほだつ)とも呼ばれます。
脱税行為の例
脱税行為として以下の例が挙げられます。
- 売上や収益を除外する、意図的に隠す(過少申告)
- 架空の経費計上(経費の水増し)
- 二重帳簿の作成
基本的に、意図的な虚偽申告や隠ぺい等が該当すると考えて良いでしょう。
なお、脱税かを判断する際に特に重要となるのが悪意の有無です。
仮に所得の高額な計上漏れがあったとしても、それが故意でなければ悪意のある脱税行為とはみなされないのが一般的です。過少申告に対するペナルティは課せられますが、無申告加算税や刑事罰といった厳しい対応にはなりません。
脱税に対するペナルティ
脱税に対して発生し得るペナルティを3つ紹介します。
【延滞税】
期日までに納税が行われない場合に発生する税金です。申告納税額と納付するべき税額の差額部分が延滞税の対象になります。
【加算税】
適切な税務申告が行われなかった場合に課されるペナルティです。以下の3種類が該当します。
- 過少申告加算税
本来納付するべき税額よりも申告内容が少ない場合に課されます - 無申告加算税
税務申告の義務を怠った場合に課せられる税金です - 重加算税
意図的な虚偽申告や仮装、隠ぺい等をした場合、過少申告加算税・無申告加算税に代わり重加算税の対象になります。過少申告加算税や無申告加算税よりも税率が高く設定されています
脱税は悪意をもって意図的に行われる行為のため、重加算税の対象になる可能性が高いです。
【刑事罰】
以下のケースに該当する場合、刑事罰の対象になる可能性もあります。
- きわめて悪質な行為である
- 逃亡や証拠隠滅の恐れがある
法人税法第159条で、刑事罰は10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金と定められています。
租税回避とは
租税回避とは法律の想定する範囲を超える不自然・不合理な手段によって税額を 減らそうとする行為です。「グレーゾーンに該当する行為」と表現できます。
脱税との大きな違いは、明確な違法行為ではない点です。後述のようにペナルティの対象にならないため、節税を謳いながらも実態は租税回避に該当する手法をとるケースも珍しくありません。
租税回避の例
租税回避として以下の例が挙げられます。
- タックスヘイブンの活用による法人税・所得税等の回避
- 会社設立の繰り返しによる消費税の回避
なお「タックスヘイブン税制」の存在により、現在はタックスヘイブンの活用による税額軽減はほぼ不可能といえるでしょう。
租税回避に対してはペナルティが発生しない
前述のように、租税回避に対してはペナルティが発生しません。理由として、税の世界に存在する「租税法律主義」の考え方が挙げられます。
租税法律主義とは、法律に基づく課税しか行わないという考え方です。たとえ不自然・不合理な手法でも、法律で禁止されていなければ課税対象になりません。法律で禁止されていない行為はすべて合法とみなされるため、ペナルティも課されないのです。
なお、日本には租税回避を全面的に禁止する法律は存在しません。ただし租税回避の中には、個別で否認規定が設けられている手法も存在します。
具体例として以下が挙げられます。
- 同族会社の行為または計算の否認規定
- 役員給与のうち不相当に高額な部分の損金不算入
- タックスヘイブン税制
租税回避は実施しても問題ない?
結論として、租税回避は「実施しても問題ない」とはいえない手法です。
租税回避をするべきではない理由として以下の2つが挙げられます。
- 租税回避に関する国と納税者の裁判事例が複数存在し、納税者側が負けた事例もある
- タックスヘイブン税制のように、租税回避を防ぐための新たなルールが個別的に定められる可能性がある
「租税回避に対してはペナルティが発生しない」と解説しましたが、裁判によって納税者側が負ければ処分を受ける恐れがあります。将来的に個別の否認規定が設けられる可能性も高いです。
以上のように、手放しで実施するにはリスクが高すぎるといえるでしょう。税負担を抑える方法としては、税法で想定された合法的な手段のみをとることをおすすめします。
脱税や租税回避と節税の違い
脱税、租税回避、節税は、いずれも税負担を抑える目的で実施される行為を意味します。
脱税は意図的な虚偽申告や隠ぺいにより税額を抑えようとする行為です。法律で明確に禁止されています。
租税回避は明確な違法行為ではないものの、グレーゾーンに該当する行為です。税法の想定する範囲を超えた手段でありリスクが高い手法といえます。
節税は、税法の想定する方法で税額を抑えようとする行為です。代表的な例として特例の活用が挙げられます。税額を下げるというより、必要以上に税金を払うことを避けるための行為といえるでしょう。
まとめると、脱税・租税回避と節税を分ける基準は、税法が想定する範囲内であるかです。
そして、税理士が推奨するのは合法的な手段である節税のみとなります。税法の想定する範囲内で、自然かつ適切な方法で税負担を抑えましょう。
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