個人事業主の法人化のタイミングについて税制から解説。年間所得700~800万円が目安

税務情報
個人事業主の中には、ゆくゆくは法人化を見据えている方もいらっしゃるかと思います。個人事業主では所得税が、一方で法人には法人税が課されますが、所得税と法人税においては税の計算や所得についての考え方が異なります。もし法人化を検討されている場合は、法人税への理解が必要です。
ここでは税制の観点から、個人事業主が法人化するベストタイミングについて解説します。

所得税と法人税の違いとは?

所得税とは個人が得た所得に対する税金のことで、1月1日から12月31日に得た総収入額から必要経費を差し引いた金額に対して課税されます。所得に応じて税率が異なる「超過累進税率」が導入されています。申告方法は申告納税方式が採用されており、納税者自身が税額を算出して直接申告する仕組みとなっています。
また、所得税では所得が10種類に分けられており、
  1. 山林所得
  2. 利子所得
  3. 譲渡所得
  4. 不動産所得
  5. 配当所得
  6. 雑所得
  7. 事業所得
  8. 給与所得
  9. 一時所得
  10. 退職所得

個人事業主としての所得以外にも該当する所得があれば確定申告時に申告しなくてはなりません。そして、経費においては、個人事業主の場合には上限が設けられておらず、事業に関係する出費であればいくらでも計上できます。

一方で法人税とは法人の所得を対象に課される税金を指します。所得の期間が所得税とは異なり、法人が定めた会計年度期間が課税対象で、会計年度末の2ヶ月後までに申告しなければなりません。
例えば3月31日が決算日であれば5月31日までに申告する必要があります。
とりわけ所得税と異なる点は、所得の定義が異なる点です。所得税では「所得=総収入額ー必要経費」であるものの、法人税では「所得=益金(売上や売却益など)ー損金(売上原価や販管費、損失など)」と定義されています。
会計の観点からは利益として含まれていた項目が、税制では損金として見なされることもあります。また、逆のパターンもあります。
(いわゆる「損金算入」「益金不算入」)その代表例として法人が支払う配当金があり、配当を支払った法人にはすでに法人税が課されているために、受け取った配当に対しても法人税を課すと二重課税となることが理由です。
また、法人税では「税制調整」と呼ばれる仕組みがあり、このフローで法人の利益と課税所得を調整させています。個人事業主の場合は経費には上限がないものの、法人では交際費などの項目に上限があり、その上限を超えると課税対象となります。
他に異なる点としては、所得に対して超過累進税率が採用されている所得税と異なり、法人税では規模に応じて一律となっています。

法人税と所得税の違い

法人税所得税
課税対象 法人が得た全ての所得 個人の所得(10種類に分けられる)
税率 資本金1億円以下の中小法人:
年間所得800万円以下は15%
年間所得800万円以上は23.2%
中小法人以外の法人:23.2% 所得に応じて超過累進税率が採用されている
対象期間 定款に記載されている事業年度 1月1日から12月31日
申告期間 事業年度最終日の翌日から2ヶ月以内 翌年2月16日から3月15日

法人化の目安とは?

個人事業主の法人化のタイミングについて、税制面から考えると年間700万円〜800万円の利益を出すあたり(月あたりおよそ60万円)が目安といえます。
先にもお伝えした通り、個人事業主に課税される所得税では超過累進税率が採用されており、所得と税率の関係は下記になります。

所得と税率の関係

所得 税率
1,000円〜1,949,000円 :5%
1,950,000円〜3,299,000円: 10%
3,300,000円〜6,949,000円 :20%
6,950,000円〜8,999,000円 :23%
9,000,000円〜17,999,000円 :33%
18,000,000円〜39,999,000円 :40%
40,000,000円〜 :45%
出典:国税庁HPより(2023年4月27日時点)
一方で、法人税については年間所得800万円以下の資本金1億円以下の中小法人は15%、800万円以上になると23.2%となることより上記の表から法人化の分岐点を考えると、節税効果があるのは利益が700〜800万円あたりに差し掛かったタイミングがベストだと言えそうです。

法人化のメリットとは?

個人事業主と法人では税制において大きく違いがあります。節税面から考えると個人事業主が法人化するタイミングとしては年間の利益が700〜800万円に達したあたりを目安とすると良いでしょう。
法人化のメリットとしては社会的信用を得られること、節税対策ができること、事業承継ができるために経営者の死後であっても銀行口座が法人名義のために凍結を免れることなどが挙げられます。
このコラムでは税制面から個人事業主と法人を説明いたしましたが、個人の資質によっては法人化ではなく個人事業主を続けるほうがベターな場合もあります。法人化すると赤字でも納税する必要があったり、各種手続きが煩雑になるためなどの理由があります。
ご自身の事業を法人化するか、もしくはそのまま個人事業主を続けるか、お悩みの方は多いでしょう。個人事業主の確定申告よりも法人税の申告はさらに複雑となります。本を読んだり調べたとしても実際に体験してみないと難しさは分からないもの。ひとりで抱え込まず、一度税理士に相談することをおすすめいたします。

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