不動産の相続は、多くの人にとって身近な問題ですが、複雑な税金が関わってきます。十分な知識がないまま手続きを進めると、想定外の税負担が発生する可能性も否定できません。円満な資産承継のためには、相続税の仕組みを正しく理解し、計画的に対策を講じることが重要です。この記事では、不動産相続に関わる税金の基礎知識から、具体的な節税方法までをわかりやすく解説します。
不動産相続で発生する税金の基本
不動産を相続する際、どのような税金がかかるのか不安に思う人もいるでしょう。主に相続税が課されますが、他にも登録免許税といった税金が関係してきます。ここでは、不動産相続において基本となる税金の種類と、その概要について解説を進めます。
相続税の仕組みと計算方法
相続税は、亡くなった方の財産を相続した際にかかる税金です。すべての財産に課税されるわけではなく、遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額が課税対象となります。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算します。不動産の評価は、主に国が定めた路線価や固定資産税評価額が用いられます。
登録免許税とは
登録免許税は、不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する手続き、いわゆる相続登記の際に法務局へ納める税金です。税額は、不動産の固定資産税評価額に0.4%の税率を掛けて算出します。この相続登記は2024年4月から義務化されたため、不動産の相続においては必ず発生する費用となりました。
不動産取得税は原則かからない
不動産取得税は、売買や贈与などで不動産を取得した際にかかる税金です。しかし、財産を引き継ぐという性質から、相続によって不動産を取得した場合には原則として課税されません。ただし、遺言によって相続人以外が不動産を受け取る「遺贈」の場合には、課税対象となることがあります。
相続税を賢く節税するための特例制度
高額になりがちな相続税ですが、その負担を軽減するための特例制度が用意されています。しかし、これらの特例は自動的に適用されるわけではなく、要件を満たした上で自ら申告しなくてはなりません。ここでは、不動産相続の際に特に重要となる特例制度について、その内容と適用要件を解説します。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、亡くなった方が住んでいた土地や事業で使っていた土地などを相続した場合に利用できる制度です。この特例を適用すると、土地の評価額を最大で80%減額できます。不動産、特に土地の評価額を大幅に下げられるため、相続における最も効果的な節税策の一つといえます。ただし、誰がその土地を相続するか、相続後にどのように利用するかなど、細かな適用要件があるため注意が必要です。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減は、その名のとおり配偶者が遺産を相続する場合に利用できる非常に強力な制度です。法定相続分または1億6,000万円の、いずれか多い金額までは配偶者に相続税がかかりません。この特例を適用すれば、多くの場合で配偶者の税負担はゼロになります。しかし、次にその配偶者が亡くなった時の二次相続まで見据えた計画が重要です。安易な利用は将来の節税機会を失う可能性もあるため、慎重な判断が求められます。
相次相続控除
相次相続控除は、10年以内に相次いで相続が発生した場合に、税金の負担を軽減するための制度です。短期間に二度の相続税を支払うことによる過大な負担を調整することが目的です。具体的には、前回の相続で支払った相続税額の一部を、今回の相続税額から控除できます。適用できる状況は限定的ですが、該当する場合には大きな節税効果が期待できるでしょう。
生前贈与を活用した不動産の節税対策
相続が発生する前に財産を移転させる生前贈与も、有効な相続税対策の一つです。あらかじめ財産を減らしておくことで、将来の相続税を抑える効果が期待できます。ただし、生前贈与には贈与税がかかり、方法を間違えると節税どころか、かえって税負担が増えることもあるでしょう。ここでは、不動産に関連する生前贈与と、節税に役立つ制度を紹介します。
暦年贈与の基礎知識
暦年贈与は、贈与税の基礎控除である年間110万円までの非課税枠を利用する方法です。受贈者一人あたり年間110万円までであれば、贈与税を支払うことなく財産を移転させることが可能です。長期間にわたって繰り返し贈与することで、大きな節税効果を生み出します。高額な不動産そのものの贈与には向きませんが、親が子に現金を贈与し、子がその資金で不動産を購入するなどの活用方法が考えられます。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与で利用できる制度です。累計2,500万円までの贈与であれば贈与税がかかりません。ただし、この制度で贈与した財産は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算して相続税を計算する仕組みです。将来値上がりが予想される不動産を、価値が低いうちに贈与しておくといった場合に有効な税金対策となります。
贈与税の配偶者控除
贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の不動産またはその購入資金を贈与した場合に利用できる特例です。暦年贈与の基礎控除110万円とは別に、最大2,000万円までが非課税となります。つまり、合計で最大2,110万円までの贈与が非課税で行えるということです。生前のうちに配偶者へ不動産を移しておくことで相続財産を圧縮し、将来の相続税の節税が可能です。
まとめ
不動産の相続には、相続税をはじめとするさまざまな税金が関係します。しかし、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減、生前贈与の非課税制度などを正しく理解し、計画的に活用することで税金の負担は軽減が可能です。不動産の評価や特例の適用要件は複雑で、一人で判断するのは難しい場合も少なくありません。不安や不明な点があれば、税理士や不動産会社といった専門家へ相談することも、円満な相続と節税を実現するための有効な選択肢の一つです。
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