ミニマムタックスという制度をご存じでしょうか。
高額な所得がある人の税負担の公平性を図るために設けられた制度で、令和8年度(2026年度)税制改正では基準額などの見直しも行われました。
本記事では、制度の基礎知識から計算方法、そして改正による具体的な変更点まで、分かりやすく解説します。
・ミニマムタックスとは

ミニマムタックスとは、正式には「特定の基準所得金額の課税の特例」といいます。
これは、極めて高い水準の所得がある人に対し、最低限の税負担(ミニマムタックス)を求め、税負担の適正化を図るための制度です。
日本の所得税は、所得が高いほど税率が上がる累進課税を採用しています。
しかし、所得が1億円を超えたあたりからは、実際の税負担率が逆に下がる現象がみられます。
これが、いわゆる「1億円の壁」です。
このような現象が起きる背景には、超富裕層の所得の多くが、給与などの総合課税ではなく、株式の譲渡益や配当など、比較的低い税率が適用される分離課税の金融所得で占められる傾向にあることがあります。
この不公平感を是正するため、ミニマムタックスは令和5年度税制改正で創設され、令和7年分以後の所得税から適用されるようになりました。
さらに、令和8年度税制改正では、この制度の見直しが行われています。
・ミニマムタックスの仕組み

この制度は、通常の方法で計算した所得税額とは別に、「最低限これだけは負担すべき」とされる税額を計算し、その額が通常の所得税額を上回る場合に、差額を追加で納める仕組みです。
すべての所得に一律に高い税率をかけるものではなく、一定の計算式によって追加負担の要否を判定します。
・税額の計算方法
追加で納付が必要な金額は、以下の数式で計算します。
追加で納める税額 = (基準所得金額-特別控除額)×税率-基準所得税額
この計算式でプラスの金額が出た場合、その金額が通常の所得税額に加算されます。
ここで重要となるのが、「基準所得金額」と「基準所得税額」です。
・基準所得金額とは
基準所得金額とは、所得税の負担水準を判定するために、総合課税の所得に加え、分離課税の所得も含めて幅広く合算した金額です。
<含まれるもの>
給与所得、事業所得、不動産所得のほか、株式の譲渡益や配当などの分離課税の所得が含まれます。
また、源泉徴収のみで済ませることができる上場株式等の配当や譲渡益についても、申告不要制度を選択している場合であっても合算対象です。
<含まれないもの>
NISA(少額投資非課税制度)口座内で生じた売却益や配当などの非課税所得は含まれません。
・基準所得税額とは
基準所得税額とは、通常どおり計算した所得税額に、申告不要制度を適用した上場株式等の配当や譲渡益について源泉徴収された税額などを加えた合計額です。
復興特別所得税も含まれます。
・令和8年度(2026年度)税制改正で何が変わった?

ミニマムタックスは、令和5年度税制改正で創設され、令和7年分以後の所得税から適用されている制度です。
創設から間もない制度ですが、令和8年度税制改正では早くも見直しが行われました。
ポイントは、特別控除額の引下げと税率の引上げ、そして適用開始時期です。
| 改正前(令和7年分〜) | 改正後(令和9年分〜) | |
| 特別控除額 | 3億3,000万円 | 1億6,500万円 |
| 税率 | 22.5% | 30% |
| 適用時期 | 2025年(令和7年)分より | 2027年(令和9年)分より |
・特別控除額が引き下げられた
これまで計算式で差し引かれていた特別控除額は、3億3,000万円から1億6,500万円へ引き下げられました。
特別控除額が半分になったことで、これまでよりも制度の対象となり得る範囲が広がると考えられます。
・税率が引き上げられた
税率も、これまでの22.5%から30%へ引き上げられました。
これにより、制度の対象となる場合の追加的な税負担は、従来より重くなります。
今回の改正は、対象となり得る人の範囲を広げるだけでなく、税負担の水準も引き上げる内容です。
・適用開始時期
これらの見直しは、令和9年分以後の所得税から適用されます。
つまり、2027年分以後の所得から新しいルールが適用されます。
・ミニマムタックスに注意したい人

この制度の影響を受けやすいのは、単に年収が高い人ではなく、給与所得や事業所得に加え、株式譲渡益や配当所得などの金融所得も含めた基準所得金額が大きい人です。
給与所得や事業所得が中心の人は基本的に影響を受けにくく、株式譲渡益や配当所得、土地建物の長期譲渡所得など、分離課税の所得が多い人ほど対象となる可能性があります。
特に、次のようなケースでは制度の適用を意識しておきたいところです。
・多額の株式売却益がある人
株式の売却などにより多額の譲渡益が生じた場合は、ミニマムタックスの影響を受ける可能性があります。
とくに、オーナー経営者がM&Aにより自社株を譲渡する場合は、多額の株式譲渡益が生じることがあるため、事前に税負担を確認しておくことが重要です。
・高額な配当所得がある人
配当所得が多い人も、他の所得とあわせた基準所得金額によっては制度の対象となる可能性があります。
とくに、他の所得と比べて金融所得の割合が高い場合は影響を受けやすいといえます。
・資産売却や出口戦略では税負担の確認が重要
ミニマムタックスの見直しは、超富裕層に限らず、資産運用で大きな利益を得た個人投資家や、M&Aなどによる事業売却を検討している経営者にとっても、確認しておきたいテーマです。
特に、令和8年度税制改正では特別控除額が1億6,500万円に引き下げられたため、従来よりも対象となり得る範囲は広がりました。
多額の資産売却や利益確定を予定している場合は、適用時期や計算方法を事前に把握し、必要に応じてシミュレーションを行っておくことが重要です。
税負担への影響が大きいと見込まれる場合は、早めに税理士などの専門家へ相談することも検討するとよいでしょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については、税理士などの専門家にご相談ください。


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