不動産賃貸業を営む個人事業主や法人にとって節税は常に大きな関心事になります。近年は従業員の給与を引き上げることで税負担を軽くできる賃上げ促進税制が注目を集めています。制度の仕組みや適用条件は複雑であり専門的な視点が欠かせません。この記事では、税理士の立場から賃上げ促進税制の具体的な内容や不動産オーナーが活用する際のポイントをわかりやすく説明します。
税理士が説明する賃上げ促進税制の仕組み

賃上げ促進税制は従業員の給与を前年度より増やした企業に対して法人税や所得税の一部を免除する制度です。国が企業に賃上げを促すために設けた優遇措置であり、条件を満たせば税負担を大幅に減らすことができます。ここでは、制度が作られた背景や適用対象となる事業者の範囲について説明します。
制度が作られた背景と目的
日本国内では長年にわたり賃金が上がりにくい状況が続いてきました。物価が上昇するなかで従業員の生活を守り経済を活性化させるためには企業による積極的な賃上げが欠かせません。そこで政府は給与を引き上げた事業者の税負担を軽くすることで企業の成長と従業員の待遇改善を同時に後押しする仕組みを導入しました。
適用できる対象者の範囲
適用できる対象者の範囲
この制度は青色申告を行っている全ての法人および個人事業主が対象です。資本金の規模や従業員数に応じて大企業向けと中小企業向けの違う枠組みが存在します。不動産賃貸業を営むオーナーの多くは中小企業向けの要件に該当するケースが一般的でしょう。従業員を一人でも雇用して給与を支払っていれば、個人でアパート経営をしている場合でも要件次第で十分に活用できる仕組みになっています。
法人税や所得税からの控除
給与の増加額に対して一定の割合を掛けた金額が法人税または所得税から差し引かれます。中小企業の場合における基本の控除率は増加額の15%です。さらに要件を満たせば最高で45%まで控除割合が拡大する仕組みです。支払う税金を直接減らすことができるため、経費として計上するだけの節税策よりも手元に残る資金を増やしやすい特徴があります。
賃上げ促進税制の要件を税理士が説明

制度を利用して税額控除を受けるためには厳しい条件をクリアすることが欠かせません。給与を単に増やせば良いわけではなく、計算方法や対象となる費用の種類に関する明確な規定が設けられています。ここでは、不動産オーナーが実際に制度を活用するうえで押さえておくべき具体的な要件や手続きについて見ていきましょう。
従業員への給与などの支給額の判定
税額控除の基準となるのは前の事業年度と比べた給与などの支給額の増加割合です。中小企業の場合は前年度から1.5%以上給与総額を増やすことが最低限の条件として設定されています。この給与総額には基本給だけではなくボーナスや各種手当も合算対象になります。不動産管理のために事務員や清掃スタッフを雇用している場合、それらの従業員に支払う給与の合計額で増加率を計算する仕組みです。
教育訓練費を増やす特例
給与の引き上げに加えて従業員の教育訓練費を増やすことで税額の控除率をさらに高めることが可能です。前年度と比べて教育訓練費を十%以上増やした場合控除率が上乗せされる仕組みになっています。不動産管理に関する資格取得の支援や接客業務の外部研修などが教育訓練費の代表例です。
確定申告での具体的な手続き
税額控除を適用するには確定申告の際に所定の明細書を添付することが条件です。法人であれば法人税の申告書に、個人事業主であれば所得税の申告書に給与の増加額や控除額の計算根拠を書いた書類を添えて提出します。計算を誤ると本来受けられるはずの控除が否認されるおそれがあるかもしれません。必要な書類を漏れなく準備して期限内に正確な手続きを済ませるために事前の準備を計画的に進めましょう。
税理士が説明する賃上げ促進税制のデメリットと対策

高い節税効果が期待できる一方で制度の仕組みを正しく理解していないと思わぬ失敗を招くリスクが伴います。特に赤字の年度や親族への給与支払いに関しては特別なルールが適用されるため慎重な判断が求められるでしょう。ここでは、制度を活用する過程で生じやすい問題点とその具体的な解決策について説明します。
赤字経営時の税額控除の扱い
この制度は法人税や所得税から一定額を差し引く仕組みであるため、そもそも支払う税金がない赤字の年度には適用できません。ただし税額控除を翌年以降に持ち越せる繰越控除と呼ばれる制度が別途用意されています。当期が赤字で控除枠を使い切れなかった場合でも翌期以降に黒字化すれば過去の控除枠を活用して税負担を減らすことが可能です。
役員報酬や親族への給与の除外
計算の基礎となる給与総額から役員やその親族に支払う給与は除外しなければなりません。不動産賃貸業では家族を役員や従業員にして給与を支払っているケースが一般的です。家族経営の形態をとっている事業者は対象となる給与の範囲が極端に狭くなる懸念が存在します。親族以外の従業員を新たに雇用して業務を任せる体制を整えることで要件を満たし制度の恩恵を十分に受けるための道が開かれるでしょう。
専門家へ相談してリスクを減らす方法
適用条件の判定や複雑な計算を事業者自身が単独で行うことには多くの困難が伴います。誤った解釈のまま申告を進めてしまうと税務調査で指摘を受け追徴課税が発生する事態になりかねません。正確な計算と適切な申告を実現するためには税務の専門家にサポートを依頼する選択が確実です。
まとめ
不動産オーナーにとって従業員の待遇改善と自らの税負担の軽減を両立できる制度は魅力的です。給与の引き上げや教育訓練への投資は短期的な支出を増やしますが長期的な事業の安定と成長に大きくつながります。一方で対象となる給与の範囲や控除額の計算など専門的な知識が求められる場面も少なくありません。制度の要件を正しく把握し正確な手続きを進めるためには専門家の的確な分析を取り入れることが現実的な解決策といえるでしょう。


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