「法人保険には法人税等の節税効果がある」「節税のためにも法人保険には加入した方が良い」
このような意見を見聞きしたことがある人も多いでしょう。
しかし実際のところ、法人保険に節税効果はありません。そのため法人保険は節税目的ではなく、別のメリットのために加入するべきといえます。
今回は法人保険に節税効果がないといえる理由や、節税以外のメリットについて解説します。
法人保険で効果的な節税対策はできない
結論として、法人保険で効果的な節税対策はできません。理由を詳しく解説します。
保険金の受取時に課税される
そもそも法人保険が節税に効果的といわれる理由は、保険料の支払いによって所得が減るためです。
しかし、解約返戻金や死亡保険金等など将来受け取るお金は法人税等の課税対象となります。すなわち保険料を支払っている間は税負担を抑えられるものの、保険金を受け取る時には多額の法人税等が発生するのです。
法人保険でできるのは節税ではなく、課税の繰り延べ(先送り)となります。
税制改正により損金算入できる割合が小さくなった
「将来支払う税金が増えても、これからしばらくの間で節税できるならそれで良い」と考える人もいるかもしれません。以前は支払保険料の全額や2分の1を損金算入できる法人保険も多く存在したため、長期にわたり税負担を軽減するという使い方ができたのも事実です。
しかし2019年の税制改正により、法人保険の損金算入について以下のような定めが適用されることになりました。
最高解約返戻率 | 支払保険料の資産計上が必要な期間 | 支払保険料の損金算入割合 | 資産計上した支払保険料の取り崩し期間 |
50%超70%以下 | 保険期間の40%を経過するまで | 60% | 保険期間の75%を経過した日から期間終了日まで |
70%超85%以下 | 40% | ||
85%超 | 最高解約返戻率となる期間まで | 10年を経過する日まで:10%
10年経過後:30% |
最高解約返戻率となる期間の経過後から保険期間終了日まで |
参考:国税庁「法令解釈通達 第3節 保険料等」
最高解約返戻率が高いほど、保険加入直後に損金算入できる額が少ない仕組みです。
法人保険には節税以外に多くのメリットが存在する
法人保険でできるのは節税ではなく課税の繰り延べです。また、2019年の税制改正によって保険加入直後からしばらくの間は損金算入できる額に制限があります。そのため、節税目的で法人保険に加入するのはおすすめできません。
ただし、法人保険には節税以外に多くのメリットがあります。この章では法人保険のメリットを4つ紹介します。
万が一の時の備えになる
法人向けのものに限らず、保険の最も大きなメリットは万が一の時の備えができる点です。
法人の経営者に万が一のことが起きると、各種支払いや借入金の返済が滞る恐れがあります。すぐに対処できなければ取引停止や返済督促などにつながり、事業継続が困難になるケースもあるでしょう。
法人保険に加入していれば死亡保険金としてまとまったお金を受け取れるため、金銭面での混乱やトラブルを抑えられる可能性が高いです。入院費用や弔慰金までカバーできる保険であれば、より広い範囲の備えができます。
経営者や役員の退職金の積み立てができる
法人保険は経営者や役員の退職金の積み立てにも活用できます。
役員退職金(役員退職慰労金)は役員報酬および役員として働いていた期間・職責等をもとに決めるのが一般的です。勤続年数や役位によってはかなりの高額になり、役員退職金の支払いによって資金繰りが悪化する恐れもあります。
法人保険に加入していれば、経営者や役員の退職にあわせて保険を解約して解約返戻金を役員退職金に充てる方法がとれます。このように法人保険は万が一のときだけでなく、存命中の退職への備えとしても有用です。
福利厚生にも活用できる
法人保険を上手く活用すれば福利厚生の充実も可能です。具体的な方法として以下の例が挙げられます。
- 生命保険の被保険者を従業員、死亡保険金の受取人を従業員の遺族として、死亡退職金や弔慰金などの遺族保障に活用する
- 医療保険の被保険者を従業員にし、病気やケガ等が起きたときに保険金を見舞金として活用する
福利厚生の充実は従業員の安心感・満足感のほか、求人面での良い効果も期待できる要素です。
契約者向けの有利な貸付制度を利用できるケースがある
加入する法人保険の種類によっては、契約者向けの有利な貸付制度を利用できるケースがあります。
保険契約者向けの貸付制度は「契約者貸付制度」と呼ばれます。契約者貸付制度の主なメリットは以下の6つです。
- 解約返戻金の一定範囲内で資金の貸し付けを受けられる
- 解約返戻金が原資・担保のため審査が不要
- 返済方法や返済期間の自由度が高い
- 金利が比較的低め
- 資金使途の定めがない
- 保険契約の解約をする必要はない
契約者貸付制度のある法人保険に加入すれば、急な資金調達が必要になった時でも有利な条件で借り入れが可能となります。
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